窓の外がすごく晴れててさ、来週からもう夏休みでね、中学2年の。
中学2年って覚えてる?
僕の隣にはいつも太田さんが居たように思う。隣の席にね。
君は中学2年のときに、なんというかすごく仲の良い友達とか居たかな?

別に中学2年のときじゃなくてもいいんだ。
僕にとって中学2年ってだけで、もちろん君にとっては、たとえば中学1年だったかもしれないし、中学3年かもしれないし、高校生のときかもしれないし、あるいは今現在かもしれないし、あるいは今からさらに5年後かもしれないし、あるいは・・・まあとにかくさ、本当に仲の良い友達って居たかなって思ったんだ。

もし居たのなら、僕がこれから書くことってちょっとずつあるいはちょっとだけうまく伝わるような気がするんだよね。

なぜなら、僕にとっての中学2年ってのは、たとえば、仲の良い友達が純粋に仲の良い友達だって言えて、仲の悪い友達が純粋に素直に仲の悪い友達って言えたからなんだ。
仲の悪い友達っていう表現がいまひとつ良くないようだけど(だってさ、仲が悪いって時点で友達なのかどうなのかって本質的に疑問が残るよね?)、とにかく中学2年の僕にとっては仲の悪い友達は仲の悪い友達っていうのが一番しっくりくるんだ。

太田さんは仲の良い友達だったのか仲の悪い友達だったのかよくわからない。
でも席替えのたびに太田さんの隣に座ろうとしてたように思ってて、なぜかうまくいつも太田さんの隣に座ってたんだ。
別に好きとか恋をしてるとか愛し合ってるとか全然なかったのに(そのときは他にいたんだ、気に入ってる人が)、本当に不思議なんだけど、とにかく中学2年の僕のとなりの席には常に太田さんだったし、太田さんの隣に座りたいと席替えのたびに思ってたんだよね。
その辺のところがあるいは君にちょっとだけうまく伝わるとうれしいなと思った。

でも実際には太田さんが友達って呼べるかどうかさえはっきりしないんだ。
中学2年の僕じゃなかったらあるいはもっとうまくやれてたかもしれないし、あるいはそうじゃないかもしれない、友達なのか友達でもないかもしれないなのか良くわからないけど、そんな風になんかあいまいで・・・ってのが一番いいのかもしれない。
つまりね、もし僕が中学1年生で隣の席がたまたま太田さんだったら僕はあるいは好きになってて告白したりふられたり落ち込んだり、そういった君にはっきり伝えられる話があるのかもしれない。
あるいは僕が中学3年のときに太田さんと同じクラスになったりしてたのなら、隣の席に固執するなんてまるでなかったのかもしれない。
つまりそういうことなんだ。
中学2年のときに太田さんと1回隣の席になって、そのあと「席替えとかしませんか」とクラスの中でそういう雰囲気になって、そういうふうに実際席替えになったとき、太田さんの隣の席に固執したのはなぜかという疑問に、はっきりとは答えを表現できないし、それから仲の良い友達なのか仲の悪い友達なのかもはっきりしないし、さらに友達と呼べるのかどうかもはっきりしなかったんだよね。まったく。

唯一はっきりしているのは、
夏休み中に太田さんは転校していって僕の席の隣は誰も居なくなったんだけど、それで一人でのびのびとしていたんだけど、ある秋の日の午後に、窓から日差しが入ってきて、授業は数学か何かで、そのときに太田さんが居なかったので僕は話したい話ができなかったんだ。僕が飼ってた犬の話をね。

ここに今、太田さんが居てくれたら、隣に居てくれたら僕は本当の犬の話ができたのに、って思ったんだ。
それが唯一僕が太田さんについてはっきり言えること。
話したいときに君は居ないってことだ。


4.従兄弟の話

本当の自由ってなんだろうね。

たとえばさ、数学の時間に右手でペンをくるくる回しながらさ、左手でそっと少しずつ窓を開けてくんだよね。
もう夏が近くて、いやもう思いっきり夏なんだけど、だからちょっと蒸した空気の中をさらりとささやかな風が流れれば、それはもう気分を一新させるのに十分なんだ。
この感じをなんと呼べばいいかわからないけど、自由について考えるとき、いつもこのイメージが浮かぶんだよね。つまり考え方の方向性は間違っていないんだよ、きっと。
感じとしては。フィーリングとしては。
なんと呼んで良いかわからないけど、その「わからない」は自由についてどう表現していいかわからないときの「わからない」にとても似ていると思うんだ、僕の中では。

ところが従兄弟においては、彼はその、自由というものをこうはっきり僕に示したんだ。

「夏休みなんだけどちょっと自由にさ、遊びに行かない?」って。

彼が何を言ってるのか全くわからなくて途方にくれたのだが(本当に途方にくれてしばらく立ち尽くしたんだ)、それにはこういう訳がある。

ちょっと長いんだけどね。
それは音楽の授業から始まる。

音楽の授業は音楽室に移動なんだ。
移動したら好きな席に座るんだ。

校舎の東側の一番隅にあって、うちの教室からはけっこう遠いんだよね。
でも最上階(6階)にあって、窓からの眺めは結構いいんだ。
しかも教室が扇状になっていて、スタジアムのように段差がついているんだ。
一番後ろの席からは、教室全体を見下ろせるような形になっているしね。

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